2008年06月27日

生活保護「老齢加算廃止」の行きつく先は?

 6月26日のNHKニュースは、以下のニュースを伝えました。

 <生活保護を受けているお年寄りたちが、70歳以上の人に支給されていた老齢加算が廃止されたのは最低限度の生活を保障した憲法に違反すると訴えた裁判で、東京地方裁判所は「廃止によって生活保護の基準が著しく低くなったわけではなく憲法には違反しない」として訴えを退けました。

 この裁判は、生活保護を受けている東京の73歳から84歳のお年寄り12人が、70歳以上の人に上乗せして支給されていた老齢加算が廃止されたのは最低限度の生活を保障した憲法に違反すると訴えていたものです。老齢加算は、高齢になると食費や暖房費などがかさむとして月に1万8000円程度支給されていましたが、国の決定で4年前から段階的に減らされ、おととし廃止されました。26日の判決で東京地方裁判所の大門匡裁判長は「国は、70歳以上の人が60代の人に比べて消費が少ないことなどを理由に、老齢加算は必要はないと判断した。廃止によって生活保護の基準が現実の生活状況を無視して著しく低くなったわけではない」と指摘しました。そのうえで「原告のお年寄りがあらゆる場面で節約を強いられ不自由を感じていることは理解できるが、健康で文化的な最低限度の生活を侵害したとはいえず、憲法には違反しない」と判断し訴えを退けました。

 「70歳以上の人が60代の人に比べて消費が少ない」とは何を根拠に言えるのだろうか?医療費等を考えれば、逆ではないのか?また、「健康で文化的な最低限度の生活を侵害したとはいえず」とは、食うや食わずすれすれの生活を「健康で文化的な最低限度の生活」だと強弁しようとするものではあるまいか?この非人道的な判決は、下記に見る一連の国の措置を追認・補強するものに他なりません。

 5月23日の「医療介護CBニュース」は以下のように伝えています。

 <宮崎県で介護療養病床などを運営するけんなん病院の藤元理事長は、「骨太の方針2006」で決定した、社会保障費を2007年度から5年間、毎年2200億円ずつ削減することで総額1兆1000億円を削減しようとする方針について、実質の削減額は単純な2200億円ずつの累積ではないとした。「(削減した2200億円を)翌年に元に戻せば5年間で1兆1000億円ということになる。しかし、下げた分を翌年は上げないため、その効果が翌年も続く」と述べ、2200億円削減された分は翌年もそのままになっており、さらにほかの分野で2200億円が削減されるため、これまでの削減額にさらに2200億円が上積みされる計算になると指摘した。・・・従って「5年間で1兆1000億円の削減ではなく、実は5年間で3兆3000億円の抑制だ。5年目からは毎年1兆1000億円下げられることになる。これは永久に続くため、10年間続くと11兆円の抑制効果になる」と述べた。さらに、この削減を続ければ、日本の社会保障制度は「制度残って国民滅ぶという状態になる」と指摘した。>

 6月18日の「中日新聞」は以下の記事を伝えています。

 <経済財政諮問会議(議長・福田康夫首相)が17日開かれ、大田弘子経済財政担当相が政府の経済財政運営の基本方針となる「骨太の方針2008」の素案を提示した。「歳出改革の努力を決して緩めることなく、最大限の削減を行う」と明記し、「骨太06」で定めた2011年度までの歳出削減計画を続行する方針を確認した。

 与党内では、社会保障や教育、政府開発援助(ODA)などの分野で歳出増圧力が高まっているが、こうした動きとは一線を画し、歳出削減方針を貫いた格好。骨太の方針は今後、政府・与党内で調整した上で、月内に決定する予定だ。>

 何が「骨太の方針」か?政府は「国民抑圧」の屋台骨の骨を「太く」しつつあるではないか!政府発の言葉だけが踊り、それをマスコミがさも意味があるかのようにもてはやす。そういう奇妙な悪循環が続いている。宮崎のけんなん病院・藤元理事長の指摘によれば、社会保障費の削減額は、毎年2200億円増えるのだから、5年で計1兆1千億になるのではなく、実はその3倍、3兆3千億に上るのだという。「これは永久に続くため、10年間続くと11兆円の抑制効果になる」という!恐るべき事態である。この種の数字のマジックに我々は、断じて軽々に乗せられてはならない。

 このようなことを許し続けては、藤元理事長ならずとも、「”社会保障制度”残って、国民滅ぶ」と叫ばざるをえない。この項トップの、「生活保護の老齢加算廃止」はその象徴である。「後期高齢者医療制度」の問題と根底は全く同一であり、また「ウバ捨て山」の別の形であると言わねばならない。

 上記NHKニュースの続きを見て、この項の最後としたい。

 <同じような裁判は、東京以外にも全国9か所で起こされていますが、判決が出たのは今回が初めてです。判決について原告の人たちは記者会見し、控訴する方針を明らかにしました。原告団長の横井邦雄さん(79)は「裏切られた思いだ。老齢加算がなくなる前ですら、ぎりぎりの生活で苦しかったのに、国の政策は金のない年寄りは早く死ねといわんばかりだ。歯を食いしばって闘いたい」と話していました。また八木明さん(82)は「勝てると信じていたので涙が止まらなかった。映画をみたり芝居をみたりするお金が欲しいわけではない。生活に密着したお金が切られている。あと何年生きられるかわからないが闘い続けたい」と話していました。>  <哲>



  


 




Posted by 代表:岩井哲 at 14:27│Comments(1)
Comment list
 >「70歳以上の人が60代の人に比べて消費が少ない」とは何を根拠に言えるのだろうか?医療費等を考えれば、逆ではないのか

生活保護の場合、医療費は全額医療扶助で賄われるため、医療費の負担増を考慮に入れる必要はありません。

また、そもそも今回の判決は老齢加算廃止の妥当性を争ったものであるのですから、社会保障費の削減にからめて論じるのは不適切ではないでしょうか。(国の財政が豊かで、社会保障費の削減という課題がなかったとしても、存在異議に疑いのあるものについて廃止を検討するのは当然)
Posted by 名無し at 2008年07月04日 06:15
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
生活保護「老齢加算廃止」の行きつく先は?
    コメント(1)