2008年09月27日

サブプライム問題に端を発する米金融危機の淵源は何か?

 ★9/16のリーマン破綻に引き続き、9/25米最大手銀行W・ミューチュアル(住宅金融が主力の貯蓄貸付組合)がまた破綻した。総資産33兆円の、米銀行史上最大の破綻である。この破綻も、無論サブプライム問題の波及の結果である。

 ★また、米政府=FRB主導で、諸金融機関の不良債権処理のために公的資金75兆円を投じるという「金融危機対策法案」が、議会との協議が合意に至らず、継続協議となった模様である。これは、与党・共和党の内部からの強い反対論に押された面が大きいとされる。この政府からの公的資金援助無しに果たして米金融界が立ち直れるかどうか大いに疑問であるが、その反対論は、このFRBの「捨て身」の危機回避策が、反面、「ドル危機」に直結するのではないかとの深い危機感に基づくものと思われる。つまりは、今回の金融危機の回避策は、「ドル危機=ドルの信用の崩壊」の進展と背中合わせだということである。

 ★ここで、今回のサブプライム問題に端を発した金融危機の由来・淵源について考察を加えて置きたい。現代金融は、(預金の貸出で利ザヤを稼ぐ)古典的な商業銀行主体から、1980年代以降、(「市場化」「グローバル化」「エンジニアリング化」の中で)投資銀行主体へと構造変換してきた。資本市場が発展し、世界の資本が自由に往来し始め、デリバティブ(金融派生商品)などの金融商品などの金融技術の開発が進展(「エンジニアリング化」)する中で、資本市場が地理的に拡大し、時間的に短縮され、取引金額が急激に膨張していった。株式・債権の発行、M&Aなどを展開する「投資銀行」の出現であった。政治面では、1980年代、レーガン政権・サッチャー政権の「新自由主義」の謳歌と軌を一にしていた。米・英主導の「新自由主義」(日本の小泉路線は、その2周遅れの追従展開であった)は、財政破綻した新興国・途上国などに対し、国際通貨基金を通じて市場開放や外資導入、公的部門の民営化などの処方箋を施し、「投資銀行」の新たなビジネス機会を拡大していった。

 ★上記の辺りまではまだ、「投資銀行」も危うさをさほど露呈してはいなかったが、巨額の借入金を運用するハイ・レバレッジの高度化・「格付け」機関の跋扈による「虚像」の流布・「いつでもいくらでもお金はある」という流動性への盲信が、いつしか「投資銀行」を覆い尽くし、バブルが醸成され、それはサブプライム問題を通し、今回一気に破裂するに至ったのである。商業銀行はバブルを作り出さずとも、預金&融資の利ザヤで身を立てていくことが出来るが、本来「投資銀行」はバブルを作り続けることによってのみ、巨額の人件費・システム費用などを賄うことが出来るという極めて危うい存在なのである。

 ★サブプライム問題では、「虚」なる住宅需要(=バブル)を大量にデッチ上げ、それを様々の金融商品と組み合わせ、一見もっともらしい形を作り上げ、全世界の金融市場にばらまくという「天をも怖れぬ所業」を繰り広げて来て、この惨憺たる結果を招来しつつあるのである。米・英資本主義の悪業の果て、「自業自得」の極みと言わねばならない。バブルを自ら作り出し、それを転がしながら永久に儲け続けようなどとは、ありえない「ビジネスモデル」である。資本主義の最も悪質な「虚」なる部分を拡大生産した結果がこのナレの果て、と言っても過言ではない。日々、額に汗して、コツコツと稼ぐことを忘れ去り、「金が金を産む」構造の極大化が今日の「投資銀行」の軒並みの破綻をもたらしているのである。今後の各国資本主義にとり、今回の米金融機関の連鎖破綻をどれだけどのように教訓化して軌道修正を図れるのかが死活的な課題となって来ている。  <哲>


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Posted by 代表:岩井哲 at 13:52│Comments(10) │世界の事
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ポティカの方にコメントが入っていたのでこちらにも転載します。

Re:サブプライム問題に端を発する米金融危機の淵源は何か?
サブプライム問題の発生の原因(本質)と結果を<哲>さんの説明で、
スッキリ飲み込むことができました。
米国低所得者層の住宅需要について、
ボクは<哲>さんの文章を読むまで、
つまり、今の今まで、
米国の住宅需要は、正しい「有効需要」だと、考えていたから
本質がみえなかったのですね。
永久に儲ける仕組みを実現するために、
その手法として、様々な金融商品(デリバティブ)を組合せ、
それを転がし続け、
利益を生み出し続けるため、
まず、最初のキックオフ=「需要」が必要だったのですね。
そこで意図的に創出されたのが
実は仕組まれた「虚」なる需要だった。
馬の鼻面にニンジンをブラ下げて、食いつかせるようなやり方で
目の前に超低金利(サブプライム)の融資をチラつかせて
その「虚なる需要の創出」の為に利用されたのが、
「住宅を持ちたいというささやかな夢」を抱いた哀れな米国低所得層だったという事ですね。
ナルホド、そう考えれば、
「サブプライムとデリバティブの関係」
「デリバティブと金融破綻の関係」
「利用する者と利用される者」
「からくり」と「つじつま」がよく見えてきました。
(ボクなりに)何となくこの問題についての
現象の脈絡が理解できてきた気分です。

ありがとう<哲>さん。

日向国の芋がらぼくと http://2008年09月27日 16時33分


Re:サブプライム問題に端を発する米金融危機の淵源は何か?

かつて日本の住宅金融公庫が、金利先取り式のステップ償還(後にゆとり償還)を行いバブル崩壊の引き金にもなりましたが、サブプライム問題と同じ仕組みによるものだったと思います。住宅金融公庫に上乗せして貸し付けていたのが年金基金による担保後順位の住宅資金貸し付けで、これ等は殆ど回収不能な不良債権と成りました。日本の場合は不良債権を国債を発行して国の借金に転化しましたので、金融機関の方は助けられましたが、破産宣告をしたり自殺を追い込まれた国民の数は、年間数万人とも言われました。不労所得を得ようと試みる似たような虚構のビジネスモデルが、大なり小なり次々と生出されようとしています。嘘も大嘘だと犯罪にもならないのでしょうかね。殺人も戦争だと英雄として取り扱われて正当化されるようにです。
END
kaze http://2008年09月27日 22時32分
Posted by 世直し世直し at 2008年09月27日 22:37
80年代から米国は証券化する動きが加速したと認識しています。正しい言葉か分かりませんが、金融資本主義であると考えてきました。

あらゆる商品が証券化されたのです。ただ、日本では馴染まない手法であり、又、ノウハウもなく、開発ではなく販売に注力するだろうと。

不動産分野では取り入れた企業があり、短期間に成長しましたが、昨今相次いで破綻しています。むろんサブブライムの影響によるものです。既に東京ではマンション価格が半値近くまで下落している事例もあります。

都銀や大手証券に代表されるようにサブブライムローンを組み込んだ金融商品が保有されており、低価法により評価損を計上していますが、早期に処理した野村證券などは破綻企業の一部を買収しています。

過去にも多くの金融危機がありました。その度に悲観的コメントが出されましたが、幸いにも世界の金融市場は克服して来ました。今回の危機は米国発で先進国を巻き込んでいます。官民連携しなければ極めて不幸な結果となるでしょう。

今最も注視すべきはドルの下落ですし、信用の収縮、つまり経済の混乱ということです。

余談ながら、リーマンブラザーズ日本法人に勤務していた三十代女性部長の月給はなんと三千万円だったそうです。

富の偏在が市場の崩壊を招くという学説(ラビバトラー)がありますが、言われるまでもなく『金は天下の回りもの』と多くの日本人は知っています。その英知に期待します。
Posted by 黒騎士 at 2008年09月28日 12:53
三年前には証券業界でサブブライムローンへの底知れぬ不安が語られていましたし、一年前には具体的にリーマンやメリルリンチがヤバイと囁かれていました。これは周知の事実だったと言えます。何故、それらが一般に知られていなかったかと思われる人々もいることでしょう。

それは風説の流布という、証券取引法に抵触するからかも知れないからでした。業界内では話すが外には漏らさない。ただ、野村證券とて業界の噂を知っていた筈ですが、対応は遅かった、銀行よりは早かったけれど。この辺が大手の限界なのかもしれません。

日本のバブル崩壊一年前に、バブル崩壊の予言をレポートで発表したことがあります。結果的には、その後一年に渡り株式市場は上昇、レポートは無視されて弱気論者の烙印を捺されました。この業界では左遷を意味します。己の信じるところに従う気持ちは今も変わりませんが、そのレポートがバブル崩壊後に盗用された、しかも直属の上司によって、です。

愚痴になりましたが、証券市場は他に例を見ない、唯一、近未来を正確に予見し得る存在であると思います。金儲けだけではない、市場には見えざる神が存在するのです。私は市場崇拝者です。かつて『市場の声を聞け』と言われたものですが、経験でも知識でもない、声を聞くことが出来るのは市場を崇拝する一部の人だけです、その意味では職人の世界かも知れません。
Posted by 黒騎士 at 2008年09月28日 15:45
米国議会でレスキュープロジェクトが否決された影響でダウ平均が史上最大の下落幅と報道されています。しかし、下落率では17位です。幅に注目するのか、率なのかは別にしても、仮に可決されていたとしても下落傾向に歯止めが掛かったかは疑問です。

そもそも、公的資金70兆円で救済出来るとする根拠は何でしょう。IMFの試算は140兆円程度と相当数字に乖離があります。不良債権は時間の経過と共に更に劣化するのが普通です。いわゆる雪だるま式なのです。

公的資金の大規模注入はドル価値の一段の希薄化を招く、即ちドル暴落であり、返り血を浴びた円は実力以上の、輸出立国たる基盤が大きく揺らぐほどの、猛烈円高です。

皮肉か?ドル紙幣(1ドル硬貨も)には『我々は神を信じる』と表示されていますが、今まさに市場は見えざる神の審判を受けなければなりません。天国と地獄の門を間違えないことを祈ります。
Posted by 黒騎士 at 2008年09月30日 20:33
外電によれば不良債権の査定にあたり、保有する企業の評価価格で引き取る案とのこと。余り査定が厳しいと企業の売却損が拡大するからだという。ハッキリ言えば、スーパーアバウト、大甘査定です。

日本でも同様のケースがあり、結果は最悪でした。公的資金とは国民の税金でしかないのです。少なくとも日本人よりはパブリックな面を有する米国民の批判を下院議員が恐れるのは当然です。

NHKニュースで、『政治家と政治屋がいる。落選が恐い政治屋ではなく、未来を考える政治家が望まれる』などと、シタリ顔でのたまう男性アナウンサーには、以前から?と思っていましたが、皆さんも注意したほうがいいと思います。

日教組を批判して数日で大臣を辞めた人がいましたが、このアナウンサーを考える時に『そうかも知れない』と思います。基本的に、教師に好かれる生徒が成人になるとロクな大人にならない、そう思うのは私だけでしょうか。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月02日 20:09
以前、このサイトで東証は12日連続で平均株価が下落したと書きました。半世紀振りの珍事でしたが、注目した人々はいなかった、経済評論家を含めて、殆ど危機感を抱いていなかったのです。私に言わせると、これが間抜けな世間というものです。素人とプロとの違いは市場に対する畏敬の念を抱いているか、いないか、です。
米国は経済危機において、金融市場に注力しているようですが、問題の根源は住宅市場にあります。危機に際しては、どうするか!であり、女子供が思うような、どうなるか?ではないのです。思案ではなく行動が必要だと。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月03日 19:10
昨日、米国で修正金融安定化法案が可決通過しましたが、市場は大幅に下落しました。これは更なる対策を求める市場の催促だと思います。
かつてのバブル崩壊した後の東証でも同様でしたし、(失われた10年)と言われる時代を過ごしました。それは就職氷河期となり、若い人々が定職に就けず、人件費流動化を求める企業の需要に連携する供給制度の拡大、それが現在の派遣です。結婚適齢期だった人々は生活の不安定から結婚せず、シングルに甘んじているケースも多いかと思います。少子化が齎す人口減少は国力の衰退でもあります。
最終的に、どれくらいの公的資金が必要でしょう。それが誰にも分からない、市場の動きは、その不安を代弁しているのです。さて、証券は破綻、銀行は救済、何で対応が違う?と思うかも知れません。日本では証券に預けた資金は全て保護されますが、銀行は一定金額までです。証券破綻でも国民生活に影響がありません。それだけです。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月04日 09:31
マリリンモンロー、米語ではメイリンマンローと発音したほうが通じるかと。さて、彼女が主演した(帰らざる河)ではありませんが、市場は(帰らざる株)となるのでしょうか。♪ノーリターン♪曲の中でモンローが何時ものように、けだるく歌っていますが、♪帰らざる河は、時に穏やかで、そして時に荒々しく、我が儘なのよ♪正に市場そのままです。

米国には資本家の財閥があり、例えばロックフェラーやメロン、モルガンなどです。大企業の資本は、それらが複雑に絡んでいるのです。大統領とて南部の大企業を所有している、そういう現実も知っておくべきでしょう。

傷付いた資本が回復、市場が立ち直るまで相当の期間が掛かります。日本がそうであったように、です。日本から見れば、米国バブルこそ(帰ってきたヨッパライ)だったと。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月04日 12:07
サブプライム問題は、恰も長屋暮らしの熊さん八さんに甘い囁きが『いい機会だから、長屋を出て新築の自宅を建てたらどう?』熊さん八さん『その日暮らしの俺達にローンを組んでくれるの?』その問いに『最初の金利は低くしてくれるよ。後で金利が上がるけど、その時には住宅価格が上がっているから、その分でカバー出来るよ』などと口説き落とす訳ですが、そもそも宵越しの金など持たない熊さん八さんです。期待した住宅価格が上がらず、金利上昇分を捻出できない、結果的に支払い不能となり手放すことになる訳です。
此処まではよくある話ですが、時代は江戸ではなくて21世紀の米国です。熊さん八さんの借金の証文が証券化され、他の証券と合成されて、高金利金融商品として世界中に販売されているのです。(まるでコシヒカリと事故米がブレンドされたような)状態ですから、誰が、どれくらい保有しているか分からない。特に金融機関が比較的多いので、短期金融市場ではお互いが疑心暗鬼になり、金の貸し借りが滞ることになり、最後の貸手である日銀などの中央銀行が短期市場に資金を供給しているのです。

日本のバブル崩壊後、ジャパン・プレミアムなる現象がありました。邦銀の信用が低下したからです。今回は世界的金融危機ですが、米ドルの信用がプレミアムにどの程度反映されるか注視したいと。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月04日 15:29
かつて自動車と言えば外車をイメージした時代がありました。国産車はショボイ、そんな感じでした。他にウィスキーもそうです。スコッチ、バーボン、ブランデーなど。バナナなど入院でもしない限り食べられない果物でした。テレビ放送が始まって55年、野球やプロレスも輸入娯楽です。日本人の生活は輸入品に価値を求めるものだったのです。
経済発展と共に輸入品への神話は崩壊しました。日本製品の高品質、それは国民性と言うより労働力の均一化、日本人のロボット化だったと。生きている人間に恰もロボットのようにベルトコンベア作業を強いた結果であると思います。

それで思い出すのが、子供の頃に公民館で見たチャッップリンの無声映画です。あの映画が創られたのは大恐慌時代ではなかったかと。

米国は産業が衰退。当然ながら貿易は赤字となりました。21世紀、米国を支えたのが金融だったと思います。主たる産業であるが故に、規制緩和を最も享受した、その産業の断末魔の叫びが聞こえているのです。80年代に生まれ90年代に成長し21世紀に輝かしい?活躍をした金融資本主義の終焉です。

哲さんに以前メールしましたが、奢れる者は久しからず、です。『満ちてこそ忍び寄るぞえ月影の欠けるを知らぬ人の世なれば 』この歌は、私が世に出して初めて得た最優秀作品です。
Posted by 黒騎士 at 2008年10月04日 19:18
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